2025/04/25
猫は小さな犬ではない?

よく、獣医師の世界では、「猫は小さな犬でない」と注意喚起されます。これは確かで、犬と猫では、代謝や病気の種類、中毒性を示す物質の違いなど、ある部分では大きな相違が認められるからです。
でも、裏を返せば、犬と猫はだいたい一緒であり、抽象的に見ればかなり類似していることを表しています。同じ病気も多く、多くの薬剤は犬と猫で同じです。ほとんどの病院が犬と猫を両方診察しますし、鳥類や爬虫類などの専門病院はありますが、犬専門病院、猫専門病院はかなりめずらしいです。これらの事実は犬と猫が似ているからです。
犬と猫の原始的な器官、例えば、脳や消化管もだいたい同じと言えます。おそらく犬猫の動物病院の獣医師に、犬と猫の脳と消化管の違いについて聞いても、はっきり答えられる人は少ないと思います。わずかな差異はありますが、この原始的な器官がだいたい同じなので、動物種全体から見れば犬と猫は非常に似ていると言えます。
一般的な動物病院の獣医師は脳を直接扱うことがほとんどありませんが、胃腸は治療することがよくあり、胃腸の手術もすることはよくあるので、犬と猫の胃腸に関してはかなり馴染みがあります。
実際、胃腸の薬はだいたい犬と猫で同じだし、胃腸の手術をするにあたって、犬と猫での基本的な手術手技は同じです。厳密には胃腸の壁が猫の方が薄く、腸が短いですが、実際、犬と猫の違いを考え手術に臨むことはほとんどありません。外科専門医も同じ意見でしたので、間違い無いでしょう。強いて言えば猫の方が腸が薄い傾向があり、多少繊細な手術を要求されるでしょう。また、犬の腸は猫より1.5倍長いと文献などにありますが、多分違うと思います。実際に直接触れた感覚で言えばそんなに差はありません。
したがって、俯瞰的にみれば犬と猫の胃腸はほぼ同じと言えます。さらに、他の消化器の肝臓や膵臓も、違いは確かにありますが、だいたい同じです。
適応進化の観点から言えば、これらのことは、犬と猫が食べてきたものがかなり似ていたということです。犬猫の胃腸は、豚やゴリラ、牛や羊と非常にかけ離れています。動物種全体で見れば、ほぼ同じだと言えるでしょう。現に自然界の犬と猫は同じようなものを食べています。それは主に獲物です。犬は雑食動物だと表している成書や科学雑誌もありますが、自然界で得られる植物由来のカロリーはほとんど無視できるレベルです。糖度の高い果実や芋はスーパーにしかないし、葉っぱや根っこは低カロリーであり、火を通さないとほとんど消化できません。よって自然界では植物性の食材からカロリーを得ることはかなり少ないと言えるでしょう。全カロリーの数%でしょうか。しかもそれらはたいていまずいので犬猫は好んで食べません。自然環境の野生の犬猫はほとんどのカロリーを獲物由来でまかなっており、そのような食性の動物のことを、一般的には肉食動物と言います。
つまり、犬と猫の食性はだいたい同じだと言えます。犬を雑食動物と定義するなら、猫も雑食動物です。また動物種全体でいうと、猫を肉食動物とするなら、犬も肉食動物です。犬の方が雑食性があるのは間違いありませんが、その差は微々たるものでしょう。
獣医学で、犬は雑食動物、猫は肉食動物と単純に分類されることがありますが、非常に近視眼的な考えです。犬猫間のちょっとした差異を強調しています。動物の栄養学はそのような傾向があると思っています。アミラーゼ遺伝子の変異が犬にあるなど、小さなことを強調して犬を雑食動物だと主張することはその一つでしょう。
栄養学の成書には「犬は解剖学的に肉食だが、代謝上雑食性である」とあり、混乱を招く、不適切な記載があります。犬の方が雑食性があるのは確かですが、そのような代謝と解剖がかけ離れたチグハグな動物はいません。
犬と猫では必須アミノ酸の違いなど、いくつか明らかな違いがありますが、食性がだいたい同じなので、犬猫の至適な食事をを作るとしたら、同じようなものになり、犬猫の共通のフードは作ることが十分可能だと考えています。猫に最適な食事は犬にも十分適応可能でしょう。(栄養学の専門家や多くの獣医師は近視眼的に反対の意見でしょう)
犬と猫には細かい違いはありますが、本質的、特に解剖学的、生理学的にはだいたい一緒です。本来の食べ物もだいたい一緒で非常に似ていると言えるでしょう。
よってそれらの意味で言えば、「猫は小さな犬」です。
そのように私は犬猫の臨床家として考えています。
参考文献など
Biology 188 General Biology II March 31, 2003 Obtaining & Processing Nutrients & Relation of Animal Body Evolution to Digestion Kenneth L. Campbell Professor of Biology University of Massachusetts at Boston.
https://www.slideserve.com/terentia/biology-188-general-biology-ii-march-31-2003-obtaining-processing-nutrients-relation-of-animal-body-evolution-to-dig#google_vignette
「解剖学的にイヌは肉食動物、代謝上は雑食動物」
イヌとネコの食性・採食パターン・嗜好・摂食量および飲水量 大島 誠之助 著者情報 ジャーナル フリー 2023 年 26 巻 2 号 p. 87-99 DOI https://doi.org/10.11266/jpan.26.2_87
受付時間
受付時間 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日祝 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
9:50-12:45 | ○ | ○ | 休 | ○ | ○ | ○ | ○ |
15:50-18:30 | ○ | ○ | 休 | ○ | ○ | ○ | ○ |
水曜休診
夏季休業なし
12月30日から1月3日休診